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自然なこころで生きる

たわいのない話

人は人によって磨かれるー拾われる(その2)

入社して二年目、配属が変わりC課長の下で仕事をするようになった。

C課長は、N主任の下で働く私を見て、このままではあの若者はダメになるから俺に育てさせてくれと言って引き取ってくださったという。

C課長の下で仕事するようになって、やっと仕事が面白くなった。

飲みに行くのも面白くなった。C課長と週に三日以上飲みに行くようになった。

C課長はN主任と異なり細かいことは一切言わず、私に仕事を任せて下さった。

 

配属が変わって早々、何年も前の担当者が杜撰な仕事をしていたことを知らされた。後任の担当者も課長もそれを放置していた。

それは驚くほど広範囲に及んでおり影響も大きかった。

C課長の指揮で通常業務と並行してその事後処理を行った。

しかし、通常業務を行なっていては処理できない問題もあった。

そこで課で一番信頼できる有能な女子職員と二人で三日間その処理に専従させてもらい処理したこともあった。

これを申し出た際、C課長が即座に承諾して下さったのには正直驚いた。同時に信頼されることの喜びと責任を感じた。

C課長の的確な判断で前々任者の杜撰な仕事の事後処理は本店の所管課から賞賛されるまでになった。

 

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残業しているとC課長と経営上の数字の解釈を巡ってよく議論した。

時には白熱し過ぎてC課長が立腹して帰宅することもあった。

翌日、C課長の機嫌が悪い。その原因が前夜のことにあるのを忘れて同僚の女性たちに、今日は課長に優しく接してくれるように頼んだ。昼前に同僚から、「課長の機嫌は悪くないわよ。悪いのはあなたに対してだけよ。」と言われやっと前夜のことを思い出した。

件の事後処理の中で最も困難でデリケートな交渉を要するものがあった。

出張して交渉に当たった。

課長は、私が大変困難な交渉に行ったので戻ったら成功失敗に関わらず優しく労ってくれと朝礼でみんなに伝え、一日中落ち着かなかったことを後で聞いた。

 

C課長の器の大きさと温かく真面目な人柄で私たちの課は非常にまとまって楽しい職場になった。他の課の女性職員から羨ましがられた。

一年後配属が変わった。

その頃は支社で一番早く出社し最後に帰ることが多くなった。

一ヶ月間、朝7時から夜11時まで働いて上司から注意されたこともあった。

もう史上最低とは言われなくなった。新入職員の時期はとうに過ぎていた。

二年間で私の評価は変わったようだった。

 

C課長が拾ってくださらなかったら、私は間違いなく無能なサラリーマン失格者として過ごしていただろう。

課長は部下に任せる度胸があった。

それ以降組織で仕事する際は、適任者に任せ、責任は自分が負うことに心がけた。

自分の方針と少々異なっていても目標へのベクトルが同じならば任せた方がその人の能力を発揮できる。自分の能力は完全ではないのだから。

また褒め上手だった。

ゼネコンから課長とともに接待された時、酒に強い課長がフラフラになるまで酔った。

その席で課長は営業担当者に「あなたは幸せだ。こいつは最低でも営業本部長になるだろう、こいつと今から懇意にしていれば将来何棟もビル工事の発注を受けるだろう。」と言った。

内心とても嬉しかった。翌日課長に昨夜のことを尋ねると、酔っ払って全く覚えていないと言われた。

褒めたようで褒めてない、しかし聞いた者は有頂天になって仕事に精出す。

 

 

N主任について。

N主任の下で私たちが担当していたセクションは定型的で正確性と迅速性が求められた。

その意味でN主任は上司として適任だった。不適任は私だった。

私は人と同じことや決められたことをするのが苦手だった。

イレギュラーな事例があると心が踊る。

誰も手をつけていない分野があると楽しくて仕方ない。

複雑に絡み合った問題をほぐしていくのに喜びを感じる。

このような私を彼は教育しようと努力していた。

それに応えてなかったのは私だった。

部下として不適格だった。

その証拠にN主任は転勤先で私と同期の部下と良好な関係を築いていた。

 

丸の内を歩いていた時に行き交うサラリーマンを見ていたことがあった。

妻が「自分もあの中を歩いていたはずだと思ったの?」と尋ねた。

半ば正しく、しかし不十分だった。

サラリーマンを揶揄する人もいるがそれは間違っている。

C課長の下で磨かれ、その後のサラリーマン生活の中でも多くの上司や同僚によって磨かれた。

しかし、あまりに短すぎた。

サラリーマンを見ていると十分に磨かれなかった自分を恥ずかしく思う。

彼らは私には輝いて見える。鍛えられた鈍い光を尊敬する。

せっかく拾ってくださったのに課長の期待に反して中途退職して自分を磨く場から降りたのは痛恨の極みだった。辞めざるを得なかった理由があったにせよ。

 

人は人によって磨かれる。

人は人によってしか磨かれない。

 

拙文が若い人の参考になればと願いながら。