自然なこころで生きる

たわいのない話

1日1組限定の宿

昨年の秋、友人と写真展を見るため遠くの旅館に行った。

その旅館は宿泊客を1日1組に限定して宿泊料はかなりの高額なので写真展がなければ一生縁のない場所である。

せっかくなのでランチを予約して男二人で食べた。

もともとは美術に慧眼のあったある資産家が奥さんのために建てた個人の住宅であった。

随所に建築主の美的センスが表れており、内装はじめ庭に至るまでお金をかけたのは素人の私でもすぐに理解できた。何よりも道路からそのようなことを伺い知れない慎ましさが好ましかった。

それを有名なホテルグループに勤務した若い夫婦が苦労して手に入れ旅館にした。

玄関を入るとゆるいカーブの廊下が続きリビングに至る。

写真はそこに数点飾られていた。10点あったかどうかだった。

全く目立たず写真展とは名ばかりだった。

写真のことを案内してくれたオーナーに尋ねるとほとんど興味を示さなかった。

仕方ないのですぐに料理を出してくれるようにお願いした。

サービスをしてくれたオーナーにその家のこと、旅館にした経緯などを尋ねた。

若いオーナー夫婦はかつて勤務したホテルグループの経営と正反対の経営を目指して宿を開いたそうだ。

そのグループは合理的な経営を徹底し、コストのかかる専門職は不要と考え料理人も排除していた。そのため調理は素人の従業員が行なっていたそうだ。従業員は接客から料理の盛り付けまでこなすことになっていた。その代わり出世することも容易だった。そうやって従業員の「やる気」を引き出しているのかもしれない。ただし、離職率が高いのは有名である。

オーナー夫婦は自家栽培の野菜、契約農家が作った米、果物などを自らの手で調理し客に提供していた。

上品な盛り付けと優しい味付け、化学調味料を使っていないのがすぐに分かった。

二切れの鶏肉以外は野菜だけの料理で健康的だった。

男性には物足りないと思いますと申し訳なさそうにオーナーが言ったが、確かに男性には物足りない。客観的に見ても量と内容に見合う料金とは言い難かった。

オーナーによれば、安くすれば客が増えるのは承知しているが、そうすると望ましくない客が来るようになる。それを避けるためにあえて宿泊料もランチの料金も高額にしている、ということだった。

それはそれで正しい判断だと思う。前の持ち主の美的センスを表現した建物を理解しない人が利用すれば前の持ち主の精神を汚すような気がする。

 

長い時間をかけて建物と庭を堪能しその旅館を出た。

 そのあと友人が感想を述べた。

「元勤務先のホテルと対極の経営をしようと言ってたが、写真は撮影者の心の反映にもかかわらず展示している写真の扱いを見れば人の心を大切にしていないのは同じだ。」

 f:id:satoufayukio:20170406054951j:image