自然なこころで生きる

たわいのない話

ずっと以前に伝えていた

小学生の頃から偏頭痛と吃音に悩まされた。

偏頭痛は月に一度くらいなのでそれさえ過ぎればよかったが吃音はそういうわけにはいかなかった。

授業で答えなければならないからだった。

特に国語の教科書を朗読させられるのが苦痛だった。

小学4年の時、何かの読書感想文コンクールに入選したことから全校生徒の前で朗読することになった。

担任の先生は読後に下級生が吃音のことを囃立てるかもしれないが気にしないようにとおっしゃってくださった。

しかし囃し立てたのは上級生だった。

吃音は大学に入学した後にほとんどなくなった。

ある時、頂き物を知人に渡すため妻と待ち合わせ場所に行った。受け取りに来たのは本人ではなく高校生の長男だった。私はまだ30歳になるかならないかだった。

どこの高校か尋ねると、彼は困ったような表情をした。

その表情は見覚えがあった。

吃音者の表情だった。

長い時間をかけ彼は高校名を教えてくれた。当地随一の名門校だった。

わざと不躾に「吃音で辛いだろう」と尋ねた。

暗く複雑な表情で「ハイ」と答えた。

「大丈夫、治る。私も吃音だったが、大学に入るとほとんど分からなくなるくらいになったからそれまでの辛抱だ」と伝えた。

表情が一気に明るくなった。

頂き物を彼に渡し帰宅すると電話があった。

妻の知人である件の高校生の母親からだった。

彼は嬉しそうに帰宅したそうだ。あんまり嬉しそうなので知人が、美人の奧さんと会ってそんなに嬉しかったのかと茶化したらしい。

もちろん事の次第を話し、そのお礼の電話だった。

妻と喜んだ。

しかし、本当は最も大切なことを伝えてなかったので心が傷んだ。

大学に入学することがポイントではなく母親の支配から脱出することがポイントであることを伝えていなかった。

彼の母親は社会的に立派な活動をしていたことを妻から聞いていた。

その母親なら息子が強い影響下にあることは容易に推測することができた。

それが吃音の原因かもしれない。

いつか再会したら伝えようと思った。

それから20年位以上経ってやっと母親から脱出することがポイントだと伝えることができた。

彼にではなく私に。

彼はそのポイントの本当の意味を知らせてくれていたのだ。喜んでスキップしながら帰らなければならなかったのは私だった。